2010年の夢

2010年12月14日

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 早いもので2010年も師走となり、なんとなくあわただしい季節になってきた。やたら増えてくるのが忘年会と称しての集まりである。とくに今年は「女子会」なるものが多く、40代半ばを過ぎても相変わらずガールズトークが楽しいのだから困ったものである。
 そんな会話のなかで、「年末は宝くじを買おうと思って」と言い出す友がいた。夢を宝くじに託そうという気持ちだが、このご時世、かなり本気度が高いのを感じさせた。一攫千金とまではいかなくても、せめて海外旅行代くらいあたれば、人生変わるかも。そんな本気度なのだ。それはそれで、楽しそうと思いつつ…。ふとわたしも、かつて若いころに本気で懸賞金目当てで某新聞社企画の公募に応募したことを思い出したのである。引っ越しやら、旅行やらが重なり、ちょっとお金が入り用だったのだ。
 それは1992年の夏のこと。今から18年も前の出来事だった。当時、広告制作会社に勤めていたわたしは、日々忙しさに追われていたため、バイトすることもできず、ならば懸賞金付きの賞に応募しようと思い立ったのだ。すると400文字ほどの文章を書けばいい、ほどよい公募が見つかり、さっそく応募原稿を書いて送ったのである。
 テーマは、「2010年の夢」。18年先の未来がどんな夢のある暮らしになっているか、2010年のドリームストーリーを紡いでほしいというものだった。「夢のキッチンライフ」、「夢のデパート」、「夢のトイレ」など、全部で10部門あり、そのなかでわたしは、「夢の休暇」部門を選ぶことにした。まだ20代だったわたしは、休暇でこんな旅ができたらいいなと思ったままに文章にした記憶がある。
 そして、応募したことも忘れて、日々仕事に追われていたある日、会社の後輩コピーライターから、「おめでとうございます」と言われ、その日の朝刊に公募結果が発表されていたこを知らされたのである。しかも、わたしのアイディアが部門の大賞をとっているというのだ。そして、あわてて新聞を見て確認したという顛末だった。かくしてわたしの本気度は、ハングリー精神も相まって見事に結果をだし、大賞の賞金と副賞のサイパン旅行を獲得するに至ったのである。

 あれから18年。思えば、2010年とは今年のことではないですか。 あの頃は、21世紀になるだけでも、はるか遠い未来のことと感じていたのに。まして18年先の2010年だなんて、正直自分がどんな暮らしをしているか想像すらできなかった。 まさか、これほど早く時が過ぎゆくとは思いもせずに。きっと応募した人たちもみんな同じ気持ちだったのでは。はたして思い描いた夢物語は、どれほど実現しているのだろう。そこで、18年ぶりに古いファイルを引っぱりだし、大賞発表の新聞をひろげてみたのである。
  そして、わたしが書いた「2010年の夢の休暇」は、こんな具合だった。
『ようこそ、ネーチャーワールドへ。ここは、限りない美しさと優しさ、そしてあたたかさを持ちつづける大自然との、コミュニケーションをご提案している旅行代理店です。
 アフリカの大地で偶然出あったサイの親子、ダチョウの群れ。こわがったり、おどかしたりしてはイケマセン。優しく優しく語りかけてごらんなさい。彼らだって、あなたとの未知との遭遇に少しとまどっているはず。そこで当社が発明したアニマルコミュニケーションマシーンをご利用ください。
 動物たちの音声をすばやくキャッチ。動物たちが言わんとしていることを、人間の言葉に訳します。さらに、あなたが話しかけたいことも、動物の音声に変換し、伝言いたします。ただ今、世界10スポットでの自然動物とコミュニケーション可能。まさに、ドリトル先生顔負けの、すばらし発明です。
 あなたが忘れていた大切な何か、そして優しくあたたかな言葉のコミュニケーションが見つかるはず。いつか…ではなく、今がその時です。』

 なるほど。動物と話をしながらアフリカ旅行がしたかったのである。が、実現まではちょっと遠かったようだ。たしか犬語を訳すマシーンが発明されていた気もするが、いまだ動物と話しができるのは、時々テレビなどに登場する特殊能力をもつ人間だけの特権のようだった。そして夢がかなうはずの2010年の今年は、アフリカ旅行どころか、ゆっくり休暇をとることさえままならぬまま1年が終わろうとしていた。20代のわたしと、今のわたしにとって、夢は、いまも変わらず夢のままだった。
 他部門の大賞作品を見ても、食品の鮮度やカロリーなどをチェックしてくれる冷蔵庫や、人の体温をサーモンビジョンで測り温度設定し、さらに好みにあわせて香りや風をコントロールしてくれるエアコン、まいにち健康状態をチェックしてくれるトイレなどが紹介されていた。ありそうで、ないもの。なさそうで、実現したもの。18年の歳月がもたらした暮らしは、案外あの頃と大きくは変わっていないのかもしれない。そんな思いになった。いちばん変わったのは、インターネットや携帯電話のあるライフスタイルなのだろう。
 そんなことを思いつつ、のこりわずかな2010年中に、何か小さな夢でもかなえばいいなと、40代のわたしはささやいていた。やはり宝くじでも買おうかしら。今まで一度も買ったことがない宝くじ。ちょっと夢見る時間が、楽しめるかもしれない。