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チャベの国へ

 辛いもの好きの私にとって、スパイシー料理がたくさんあるインドネシアを旅することは、もうそれだけで幸せな気分になる。
 ナシ・ゴレン(焼飯)やミー・ゴレン(焼きそば)、サテ(串焼き)、アヤム・ゴレン(鶏の唐揚げ)、カリー・アヤム(チキンカレー)、そしてソト・アヤム(鶏肉と野菜のスープ)などは代表的なインドネシア料理といえるが、どれも香辛料をたっぷり使っていて、深い味わいや香りは、一度口にしたら忘れられなくなる。
 その美味しい味を引き出す香辛料には、実にさまざまなスパイスやハーブが使われている。種類の豊富さは、さすがインドネシア。街のパサール(市場)に行くと、真っ赤なチャベ(唐辛子)をはじめ、何十種類もの香辛料が山積みになって並んでいるから圧巻だ。チャベ(唐辛子)だけでも主なもので、チャベ・ブサール(赤唐辛子)、チャベ・ラウィット(木立唐辛子)、チャベ・ヒジョウ(青唐辛子)などがあり、どこのパサール(市場)でも目につく場所に置かれているので、つくづくインドネシアはチャベの国なのだと感じる。しかも、チャベ・ブサール(赤唐辛子)は、インドネシア語で「大きな唐辛子」という意味だけあって、ホント大きい。ツヤツヤ輝いていて、思わず食欲をそそる。実は大きさほど辛くはなく、まろやかな辛みが特徴なのだが…。
 同じチャベでも、ちょっと小粒のチャベ・ラウィット(木立唐辛子)、こちらはピリッと辛く、さらに緑色のチャベ・ヒジョウ(青唐辛子)は、かなり辛いので要注意。よくナシ・ゴレンなどに添え物としてついているが、くれぐれもインドネシア人のマネをしてポリポリ食べるのだけはやめた方がいい。冗談ぬきに「激辛です」。当のインドネシア人も、「ハハーン、オレはこの辛いチャベ・ヒジョウを何本だって食べられるさ」といった雰囲気で食べつづける人がいるが、その結果、かなりマズイことになっているのをどきどき見かける。
 さらに、チャベの他にも、ニンニク、バワン・メラ(紫小タマネギ)、何種類ものショウガ系の香辛料などがパサールをにぎわしている。

 そして、これらの香辛料を石臼ですりつぶして、お料理の味つけや香りづけ、また辛みづけに使うのがインドネシア料理の特色と言える。何をどのように使うかによって、家庭ごとに、イブ(お母さん)の味、お手伝いさんの味が生まれるというわけだ。
 なかでも、サンバルと呼ばれる、唐辛子、トマト、ハーブ、塩、砂糖などを合わせて石臼ですりつぶして作る唐辛子ペーストは、インドネシア料理には欠かせないもの。炒め物、焼き物、煮物などの味つけとして料理中に使われるほか、卓上に置かれ、出来上がった料理に直接プラスして自分好みの辛さを楽しむことができる。私も、ミー・バッソ(肉団子入りそば)やソト(スープ)にたっぷりサンバルを入れて食べるのが大好きで、美味しいサンバルに出会ったときには、ついつい辛みが増してしまうものだ。

 ところで、インドネシア人は、カーと辛いチャベ・ヒジョウ(青唐辛子)をそのままポリポリ食べるかと思うと、飲み物に関してはとにかく甘いものが好きだから驚かされる。コーヒーや紅茶にはたっぷり砂糖を入れて飲むのである。スプーン3杯~5杯は当りまえ。黙っていると、私の飲むコーヒーにまで、当然のごとくスプーン5杯ぐらいの砂糖が入って出てくる。これは甘くて、とても私には飲めるものではない。だからコーヒーを頼むときは必ず
 「タンパ・グラ (砂糖なしで)!」という。
 また、よくレストランやワルン(屋台)で売っているジュース、一見さわやかそうに見えても、実はかなり甘ったるい飲み物があるので要注意。とくにジョッキグラスに入った色のきれいなミックスジュースには気をつけたほうがいい。甘いシロップなどがたっぷり入っていて、私は一口でギブ・アップだった。
 とはいえ、インドネシアはフルーツ天国。トロピカルフルーツをふんだんに使ったフレッシュジュースやエス・クラパ・ムダ(若いヤシの実の果汁と果肉に砂糖と氷をまぜたデザート)は、のどごし爽やかで、暑さしのぎに最高なのだ。一気に爽快な気分にしてくれる。
 フルーツそのものも、熱帯ならではの美味しさがいっぱい。庭になっているバナナをはじめ、マンゴ、パパイヤ、ランブータン、スターフルーツ、サラック、スイカ、アボカド…などを、日々満喫できる。しかも、私が何度か留学した東ジャワのマランはリンゴの産地。日本のリンゴに比べたら、小さめで甘さにも欠けるが、リンゴ園でリンゴ狩りなども楽しめたのである。

 辛くて甘くて爽やかな食べ物に囲まれた、インドネシア。自然界とは不思議なもので、実にバランス良く人間の五感、味覚を満たしてくれるものだ。そう思うと、あの辛さも甘さも、すべて天から与えられた味わいなのだと妙に納得してしまう。
 それにしても、あれこれインドネシア料理に想いをめぐらしていると、辛いチャベをたっぷり使った、スパイシーなインドネシア料理が食べたくなるから困ったものだ。そろそろチャベの国へ旅立とうかしら…。どうやら、真っ赤な唐辛子が私を呼んでいるようだ。
(2008.9.30, 新井容子)