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憧れのバティック

 インドネシアのお土産といえば、まず頭に浮かぶのが、ジャワ更紗として知られるバティックだろう。あの独特でエキゾチックな絵柄と色合いのろうけつ染めは、ヨーロッパにもアメリカにもない、美しい東南アジアの神秘が香り立つ。まさにインドネシアの伝統芸術品なのだ。
 18世紀ころから中部ジャワを中心に作られるようになり、はじめは王宮の人々しか着用が許されていない柄もあった。今では伝統柄からモダン柄までひろく一般の人々に愛用されるようになり、おかげでお土産品にも事欠かないほど。サロン(腰巻き)の布そのものから、スレンダン(肩掛け)、テーブルクロス、手提げバッグ、ポーチ、ティッシュケース、ハンカチ、ファッション小物までいろいろ楽しめて、とっても重宝なのだ。
 かくいう私自身も、インドネシアに行くたびに自分用のサロンを1枚、探して買ってくる。この1枚があると旅行中は実に便利だった。腰に巻いて普段着にしてもいいし、夜毛布がわりにしてもいい。砂浜などでは敷物がわりにもなる。なかでも私のお気に入りは、ソロに本店がある“バティック・クリス”というブランドもの。モダンなデザインのものは、とても洗練されているので、東京の街でも巻きスカートとして着こなしていた。また伝統柄の布は、ベッドカバーにすると素敵だった。中部ジャワの伝統のバティックは、色も渋めの茶褐色系で構成されているので、部屋のなかがしっくり落ち着いた雰囲気になる。
 さて、最近はこのバティックの知的所有権をめぐり、インドネシアの文化か、マレーシアの文化かで、かなりネット上で熱い論争が展開していたようだ。ジャワ人の友だちも、「もう信じられないわよ。バティックはマレーシアの文化だって、マレーシアで言われているんだもの」と憤慨していた。「これに怒ったインドネシア人が、ダッーとネットに書き込むわけよ」と。
 たしかに、どう考えてもバティックの本場はインドネシアだろう。外国人の私でさえそう思うのだから、誇り高きジャワ人ならなおさらのことに違いない。

 そんなバティック。ジョクジャカルタを訪ねたときに、1日入門コースで習ったことがある。職人さんたちが、チャンティンという道具を使って、ロウで模様を描いている姿は美しく、私もやってみたいと憧れのような気持ちで門をたたいたのである。工房の師匠は、絵画感覚のアート・バティックを得意としていて、NYで個展を開いたこともある人だった。これがろうけつ染めなのかと思うほどシュールな作品を作っていて、見た瞬間から、バティックを本格的に勉強したいと思ったほどだった。ところが、実際やってみると、なかなかむずかしい。チャンティンで絵柄のガイドラインを描こうとするそばから、ロウがチャンティンからポタポタと布にこぼれ落ちてしまう。ロウを置いた箇所には、その後の染色で色がつかないため、ポタポタと白い斑点が布にのこってしまうというわけなのだ。そう思うと、あの繊細な柄を描く職人の技はいかばかりかと、ただただ感心する。
 結局、私が制作した「太陽と海と魚」を描いたアート・バティックは、“ミロ風の絵”が完成する予定だったが、単なる“小さな子どものお絵描き”といった仕上がりにしかならなかった(笑)。おかげで、バティック制作は楽しかったけれど、その道に進もうなんていう夢は、1日にして消え去ることになった。賢明な選択だったに違いない。
 とはいえ、バティックに魅せられる思いは今も変わらず。今度、インドネシアに行くときは、どんな絵柄のバティックを探してこようかと、いつも心はずむ思いになる。
(2008.12.30, 新井容子)