
泊まっていたレギャン通りにあるホテルを早朝6時50分に出発して、クタの街をジョギングしてみた。ガン・ポピーズⅡを通り抜け、クタビーチへ朝ランというわけである。
30年前、はじめてクタに来て以来、じつにさまざまなクタの街の表情を見てきたけど、ゆっくりジョギングしながら、早朝のビーチに行ってみると、また別の顔が見えてくるから面白い。
そこには、旅人やサーファーで賑わう昼間や夕方とは異なり、静かで穏やかな朝の風景がひろがっていた。インド洋から押し寄せる青と白の波が、小さく、大きく、揺れ、白い砂浜を砂色に染めている。ぽつん、ぽつんと、散歩する人。サーフィンを楽しむ人たちは、海にでる準備をはじめている。そして、ジョギングする人が想像以上に多かったのである。地元のバリ人をはじめ、旅人なのか移住者なのか、欧米系の人も多い。男性も、女性もいる。国民の9割がイスラム教徒であるインドネシアにおいて、唯一、ヒンドゥー教を信奉する島・バリとあって、ジルバップ(女性のムスリムが頭にかぶるスカーフ)をつけて走っている人は見かけなかったが……。そこに私も混ざって走ってみた。
すると、一歩、一歩、砂に足をとられながらも、朝の海風が気持ちよかった。砂浜には、海岸線に平行して、ジョギングする人たちの足跡ラインが何本も残っていて、アートのような模様を描いている。これは、面白い。今まで何度もサンダルや素足で歩いた砂浜だったけど、人が少ない早朝にジョギングするのもいいかもしれない。
バリを旅するようになって約30年。変わったもの、変わらないもの、いろいろだけど……。ことにここ20年、バリは、アジア通貨危機による打撃や、数回にわたる爆弾テロ事件を経験し、何度も何度も大きなダメージを受けてきたが、その都度、ふたたび、世界有数の人気リゾート地へと復興してきたのだ。そんなことを思いながら、こうして安全になった平和なバリ、クタ地区でジョギングしている人びとを見ていると、この朝の風景も、今ではバリのひとつの日常の姿になっているのだろうと、ほんわか、すがすがしい気持ちになっていった。


