
久しぶりに南の島、常夏の楽園、ハワイに行くことになった。5月の最終月曜日が、アメリカ合衆国のメモリアルデー(戦没者慰霊の日)なので、それに合わせて、ハワイで行われるいくつかのイベントに参加しようと思ったのである。たまには、のんびりハワイで休暇をとろうというわけである。で、せっかく行くのなら、ハワイでも走ろう!という気持ちが、いつものごとくわいてきた。
ここ10年ほど、海外旅行するときは、つねにスーツケースの片隅にランニングシューズを詰め込んで移動していた。カンボジアでは、アンコール遺跡で行われるハーフマラソンに参加。インドネシアでは、公園や海岸沿いのロードなどを、朝ラン。ここではない、どこかで、あそこでも、あちらでも、自然の景色を楽しみながらゆっくり走るのは、じつに楽しかった。ならば、ハワイでも……と。
とはいえ、暑いからやめておきなさい、もう若くないんだからと、もう一人の私がささやきだす。そう、その通り。ここのところ練習不足もあって、ジョギング後は、かなりの率で慢性疲労状態になっていたのである。せっかくの旅行で、寝込んでしまったら元も子もない。やはりやめておこうかな、と冷静になる。
でも、赤道直下のインドネシアに通いなれている私にとっては、北緯20度もあるハワイは、常夏と言っても、赤道直下よりは暑さがゆるいだろうという認識がある。ハワイで早朝走ることは、インドネシアで朝ランするよりは、ラクだろう。いや、東京の真夏に朝ランするより、はるかに快適だろうと、妄想がひろがっていく。
そこで、ハワイで行われるマラソン大会を探してみると、ちょうどハワイ滞在期間中に、『ハイビスカス・ハーフマラソン』という大会があるのを発見する。レースは、ハーフの他に、15キロ、5マイル(約8キロ)とあった。コースは、ワイキキの東端、カピオラニ公園からスタートして、ダイアモンドヘッド周辺の海沿いを走るらしい。高級住宅街のカハラ地区と、美しいハワイの海の景色を楽しめる、気持ちのいいコースのようだ。そして、大会の収益は、すべて白血病患者、リンパ腫患者のための支援金として寄付されるチャリティランでもあった。これはいい! では、のんびり5マイルコースを走ろうと決定した。
しかし、いざハワイに到着すると、じつに認識があまかったことを実感する。ハワイでの5月は乾季とあって、日中、ひなたを歩くとジリジリと暑さが襲ってくる。暑い!暑い!暑いのだ。つくづくハーフではなく、5マイルコースにエントリーしてよかったと、胸をなでおろす。
大会当日。早朝5時半前に会場につくと、皆とってもゆるゆるリラックスモード。約3万人が参加するホノルルマラソンとは違い、この『ハイビスカス・ハーフマラソン』は、参加人数が約800人と少ないせいか、大会そのものがゆるゆるしていた。出場ランナーが、きちんと整列してスタートを待つこともなく、なんとなくダラダラしているうちに、あと20分、あと10分、あと何秒とのアナウンスのあとに、いきなり『プーっ』という音が鳴り、5時半、ハーフ参加者がスタートを切った。その15分後に15キロコースが、そして太陽が昇りはじめ、ようやく明るくなりはじめた6時に、5マイルコースも走り出した。
今まで参加してきた大会は、たいてい「10、9、8、7……」のカウントダウン後の号砲の音でスタートを切っていたので、今回のハワイの大会では、「あれ? もう、いきなりスタート?」と、拍子抜けしたような気分に。でも、この緊張感のない、ゆるゆる感が、なんとも心地よかった。しかも早朝とあって、気温も高くなかったので、走りだすと風を切って爽快だった。
そして、カピオラニ公園を抜け、ダイヤモンドヘッドの海側、ゆるい坂道をのぼりだすと、右側に海が見えてきて気持ちよかった。青い空に、白い流れるような雲、そして紺碧の海。爽やかな風も吹いてきて涼しい。ヤシの木の葉が、風に揺れてなびいている。沿道には、赤や白のハイビスカス、色鮮やかなブーゲンビリア、白いプルメリアなどの花が咲いていて、きれい。プルメリアの甘い香りも漂ってきて、トロピカル気分に。そうして、ダイヤモンドヘッドのルックアウトをくだったあたりの公園で、くるっとUターンすると、あとはずっとゆるい下り坂。今度は、海を左側に見ながら、ゆるゆるくだっていく。途中、近所のニワトリが飛び出してきて、私と伴走するものだから、まわりも大喜び。
こうして、ゆるゆる、ゆるゆると、ハワイの美しい風景を楽しみ、写真を撮りながら走っていたら、あっという間に5マイルが終わってしまった。もう終わってしまったの? と感じるほど、楽しく、気持ちのいい、レースだったのだ。
うん、この心地よさ、クセになりそう。ハワイでゆるラン、いいかも。





