
春、こぶしや桜が咲くころに、地元で開催される『練馬こぶしハーフマラソン』。笹目通り、目白通り、環八、川越街道と、都会の幹線道路4本を走ることもあり、かなり人気のレースとなっている。練馬区民を中心に、北は北海道から南は沖縄まで、全国から参加者が集うらしく、高倍率のハーフマラソンとして知られていた。実際、2015年に第一回大会が開催されて以来、私も何度かエントリーにトライしたが、ほとんどが定員締切の憂き目を見てきたのだった。
そんななか、唯一、2017年大会に参加できたものの、当日はあいにくの雨で、気温は5度、桜も一分咲き。残念なことに、春らんまん気分が楽しめるレースに参加する機会には、なかなか巡り合えなかったのである。とはいえ、当時まだあった“としまえんのメリーゴーランド”の前を走ったり(2020年8月、としまえん閉園)、自分の家や実家の前を走ったりと、地元でのレースは、やはり楽しかった。
その人気のレースが、2020年からの3年間、新型コロナウイルス感染症発生の影響をうけ中止を余儀なくされていたが、2023年3月、4年ぶりに開催されることになった。いよいよ世の中が動きだすんだと、ついつい私も嬉しくなる。幸い、今回、地元枠でエントリーにトライすると、抽選にも見事当選し、大会に参加できることになった。冷静に考えれば、コロナ禍の3年間、私自身、まったく走っていなかったので、花粉シーズンでのハーフを完走できるかどうか、かなり怪しかったのだが……。家にこもりっきりの3年間だっただけに、コロナ禍前の日常が戻ってくるというのは、それだけで嬉しいものだった。
こうして2023年3月末、桜が満開を迎えるころ、『練馬こぶしハーフマラソン』が開催された。花粉シーズン真っ只中だったため、あまり練習ができなかったものの……。桜は美しく、今回こそ、春らんまん気分のハーフマラソンが楽しめるのではと、期待も徐々に高まっていった。
しかし、当日は、なんとまた雨、気温も11度だったのである。それでも、朝8時、スタート&ゴール地点となっている光が丘公園には、続々と市民ランナーが集まってきた。私も、家から歩いて約15分、会場へ向かった。いまだコロナ禍が完全収束していないため、ランナー全員、大会前1週間の健康チェックに取り組んでの大会参加だった。
そして雨降るなか、約5000人の参加者が、次々にスタートを切った。私も、フード付きのウインドブレーカーを着て走りだす。雨はシトシト降り続いていて寒かったが、4年ぶりの大会とあって、やはり楽しい気持ちが先行した。そうして、地元・光が丘から笹目通り、目白通りと、よく知るロードを走っているうちに私の体調もいい感じになってきた。無理せず、ゆっくりペースで走っていたが、上り坂はさらに歩いてのぼるという“省エネ”作戦を実行。これは、案外、功を奏したようだ。
一方、こぶしや桜の花が咲く沿道では、近所の人たちが数珠つなぎで、傘をさしながら応援してくれたのは、かなり力となった。とくに16キロすぎ、体が重くなってきてからの応援は本当に嬉しく、雨で視界がぼやけるなか、地元の人たちの声援にずいぶん助けられた。17キロあたりで渡った歩道橋の横には、中学校の体育館があり、その2階の窓から中学生が応援プレートをふりながらエールを送ってくれたときは、こちらも、ついつい「ありがとう〜」と声を出して手をふり返してしまった。そして18キロあたりにある小さな公園には、色とりどりのチューリップが咲いていて気持ちがふわふわっとあがった。ああ、あちらこちらに春が咲き誇っている。
こうして雨のなか、なんとか騙し騙し走りきり、ハーフの制限時間内、2時間23分で、桜が満開の光が丘公園に戻ってくることができた。練習不足もあり、2時間30分の制限時間に間に合わないのではと心配していただけに、素直に嬉しかった。走り終わって、体がどんどん冷え、一気に寒さがましてきたが、ラン後は、同じハーフに参加していた友だちとも4〜5年ぶりに再会。久方ぶりの友との交流に、アフターコロナの生活がはじまっていることを実感する。
再会や、新しい出会いが、いよいよはじまる季節。地元での久しぶりのハーフを完走できた喜びとともに、コロナ禍を超え、ふつうの日常がもどってきている嬉しさが、じわじわと込み上げてきた。なんでもない日々のひとときに彩りがプラスされるとでもいうのだろうか。そうそう、新しい暮らし、新しい春らんまんは、もう目の前。