
インドでマラソン大会?
驚いたことに、最高気温が40度を超えることもある暑いインドで、近年、全国的にラン人気が高まっているという。今や年間200本以上も大会が開催されている、マラソン大国なのだと。
たしかに、インドで暮らす友人も、たびたび、インドでマラソン大会に参加したことをフェイスブックに投稿していた。海岸沿いの爽やかな風の中を疾走したり、ユーカリ林やカシューナッツ畑、砂の丘がつづく美しい自然を駆け抜けたりするレースは、本当に気持ちよさそうだった。しかも、そのレース中のエピソードが、アジアならではの“あるある”で、じつに楽しかったのだ。牛と一緒に走ることはもちろん、ときには鶏に追いかけられたりもする。突然、悲鳴が聞こえたかと思えば、ヤギがしめられている場に遭遇、なんてことも起こる。
あまりにも面白すぎるので、私もついつい雑誌の編集者さんにその話をすると、「インドでのラン事情」を取材して、雑誌で紹介しようということになった。
そこで、インドで年間30のランニングイベントを主催している企業「ランニング・アンド・リビング」の創設者、ラフル・ヴェルギース氏(53歳・取材当時)に、お話を聞くことにした。
知られざるマラソン大国、インド──、の秘密を。はたして、どうして、いつ頃から、インドでランブームが巻き起こったのだろうか。
ラフルさん自身も40歳から走り出したランナーで、すでに6大陸50回のフルマラソンを走破していた。記念すべき50回目は、なんとエベレスト・マラソン。そして、南極アイスマラソンを走れば、7大陸制覇になるという。これはすごい! じつにパワフルな人だったのだ。
そんなラフルさんによると、インドでランが注目されるようになったのは、2004年にスタートした国内初のメジャー市民マラソン大会であるムンバイマラソンがきっかけだったという。
以来、インドの主要都市でラン人気が広がり、ハーフマラソンや、10キロレース、6キロコースのファンランなどが、次々に開催されるようになる。ランニングクラブも各都市で急増。映画俳優、モデル、企業のリーダーたちが走りはじめたことも大きく。走るセレブは、かっこ良く。自分も走りたい。どうやら、健康にもストレス解消にもなるようだ。ランは楽しい、参加して盛り上がろう! というわけで、詳しくは、『Number Do』(2014年 vol.18号)で紹介している。
なるほど、なるほど。つまり、インドでは、記録よりも、楽しく盛り上がって走ることが、人気のようだ。で、その後である。ラフルさんから、「インドに走りに来ないか?」「一緒にヒマラヤのレースを走ろう」「いつ、インドに走りにくるの?」とのお誘いを、取材後、たびたび、いただくことになった。
えっ? ヒマラヤを走る──?
もう、驚きを通り越して、異次元の世界に入っていた。私にとって、ヒマラヤは、歩くのだって大変そうな場所。ガンジス河の源流がある、“世界の尾根”とも呼ばれる山々である。そこを一緒に走ろうと、ラフルさんは言うのである。
さすがに、知らない街の景色を楽しみながら走る、“旅ラン”の域をはるかに超えているので、即答で無理、私には考えられないお話だった。「いつか行けたらいいのだけど……」とお伝えし、丁重にお断りした。
それにしても、ヒマラヤ山脈も、インドなのだ。インドは暑いばかりでなく、気温の低い山岳地帯もある。そのことを、改めて思い出すことに。
インド洋の海岸線から、ヒマラヤ山脈まで、広い国土、多様な地理をもつインド。そんなインドでのRUN──は、その土地、その土地ならではの、風景、気候、走り方が、いろいろ楽しめそうだった。
私もいつかは、インドで走ってみよう、かな? そんな好奇心がわいてきた。まずは、古都バラナシで、ガンジス河のほとりをジョギングしたい。幻想的な日の出の時間帯は、どうだろうか。これは、楽しそう。