フェイスブック


 2011年があけ、にわかに日本で話題になりだしたものに、米国発の世界最大の交流サイト「フェイスブック」がある。チェニジアの政権崩壊でも大きな役割を果たしたとして、ニュースでも取り上げられるようになっていた。フェイスブック(FB)発表によると、世界中でサービスを利用する人は昨年7月に5億人に達したとのこと。現在では、約5億8500万人にのぼると見られている。つまり世界の10人にひとりが利用していることになるのだ。

 どちらかというとアナログ人間のわたしは、ネット上のこの手のサービスにすぐ飛びつくタイプではない。あまり知らない人とネット上で会話するのもちょっとおっくうな気がするし、しかも実名使用となると、個人情報の問題もかかわってくる。また実名で著書を出している関係上、まったく顔も名も知らない読者と「友達になる」こともあり得る。もうこうなると、「友達」の輪は無限にひろがり、実名交流サイトというより、 顔の知らぬ実名者とバーチャルの世界で交流しているようなものになってしまうだろう。ところが、
 「何言ってるのよ。あなたみたいに本を書く人こそ、フェイスブックのようなサービスを使って宣伝するんじゃないの。何もしなければ売れない時代なんだから」
と、昨年、東京在住のインドネシア人の友達に叱咤されたのである。
 ふり返れば、2009年ころから海外に住むインドネシア人の友達から、頻繁にフェイスブックに入り「友達」になりましょうという誘いのメールを受けるようになっていた。そのお誘いメールは、友達から直接くるのではなく、FB経由で送られてくるもので、そのメールを通してフェイスブックに登録できるサイトにもつながっている。さらに、どうして分かるのか謎だが、「こんな人もFBを利用しています」と、わたしが最近メールした人のなかからFB利用者を選び出し、そのリストもつけてくるのだった。 しかも本人の顔がよく分かる写真つきなのだ。 見ると、パリ在住のフランス人、日本在住のアメリカ人、インドネシア在住のインドネシア人…と、みな外国人の知人だった。へぇ、この人も利用しているのね、と感心しつつも、不思議なことに日本人の知人・友人は一人もいなかったのである。
 そこで何人かの日本人の友達に「フェイスブックって知ってる? どんなサービスなの」と聞いてみたが、みな知らない様子。「ミクシィなら利用してるけど…」という状況だった。となれば、アナログ人間のわたしは、なおさら、新しいサービスに入る気持ちは失せていったのである。

 ところが月日が流れていくうちに、東京在住のインドネシア人、台湾人などからもFBの話が持ち込まれるようになり、じわじわとFB利用者が拡大しているのを実感したのである。で、先述した東京在住のインドネシア人に、
「いろいろなサービスを利用したけど、フェイスブックがいちばんいいのよ。いま、インドネシアではどんどんフェイスブックがひろがっているわ。使っていない人はいないほどの勢いよ。何十年ぶりの友達からも連絡がきてびっくりしたり。でも面倒くさい人とは友達にならなければいいんだから大丈夫。それよりも、こういうサービスによって情報交換できることが面白いのよ。情報がどんどんひろがってゆくのよ。ヨーコも、今度インドネシアの本出したら、フェイスブックで宣伝できるわよ」と、諭されたのである。
 その通りだった。あまり面倒がらずに、思い切ってわたしもこういうサービスを利用したほうが世界がひろがるに違いにない。で、「わかったわかった、そのうちフェイスブックに入るわ…」と言いつつ、年を越し現在に至っていたのである。
 しかし、このような世界の動向に比べ、日本では実名使用への抵抗が強いのか、FBの「空白地帯」となっているようだった。事実、日本のネット人口でFBの利用者はまだ数%らしい(朝日新聞)。となると、仮にFBにわたしが入ったところで、日本語を共有する人たちとFB上で「友達」になれる可能性は案外少ないのが、今の現実だといえそうだった。
 果たして、日本におけるフェイスブックの今後はどうなるのだろう。ひろく受け入れられ、社会を、人のつながりを、ビジネスの流れを変える力を生み出すだろうか。そういった意味でも、「フェイスブック」は2011年の行方を読み解くキーワードのひとつになるかもしれない。そんな思いがわいてきたのである。


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