東京ジャーミイ


 東京・代々木上原にあるモスク「東京ジャーミイ」をはじめて訪ねたのは、かれこれ8年前の2007年4月のことだった。桜がハラハラと散るころだったことを記憶している。ムスリムのインドネシア人の友人が増えるたびに、気になり出したイスラムの教え。東京で暮らすムスリムの人たちはどんな生活をしているのだろう。
 折しも世界は、2001年の米同時多発テロ『9・11事件』以降、ムスリムへのきびしい風が吹いていた。イスラム教と聞いただけで、テロと結びつけてしまいがちだった。そもそもイスラムとは、アラビア語で「平和」を意味している。事実、私の知るインドネシアのムスリムの人々は、静かな祈りのなか、平和に感謝しながら穏やかに日々の暮らしをおくっていた。今や世界に16億人もいるイスラムの人々。やはり私たち日本人も、イスラム社会への理解を深めなくてはならないだろう。
 訪ねてみると、「東京ジャーミイ」は、1本のミナレット(尖塔)が天高くそびえ立つ、壮麗なドーム型のモスクだった。美しい建造物は、オスマントルコ様式で建設されたものだという。そのエキゾチックさは、東南アジアにあるモスクとはまた異なる、独特な美意識を放っていた。
 私も頭にスカーフをまとって礼拝堂のなかへ入ってみると、一瞬にして、光と影とカラフルな文様に包まれて、心は遥か彼方へと連れていかれた。この静謐でありながら圧倒的な美しさは、アッラー(神)の世界を象徴しているのだろうか。そして、ステンドグラスから光が差し込む堂内は、静かに祈りを捧げる人が、ぽつりぽつり。メッカの方角に向かって、繰り返し額ずき、何かを祈っていた。
 ここは、なんて美しいのだろう。おそらく、ここを訪れる人は、国や民族、宗教の違いがあったとしても、みな同じように感じるのではないだろうか。美しいものは、やはり美しい。それだけで、人々の心を平和にする。
 イスラム世界への、お近づきの一歩──。
 それは、東京においても、そんなにむずかしいことではなさそうだ。美しいものとの、新たな出会い。そんな気持ちで、ふらりと立ち寄ればいい。そこから、異なる文化や人との交流もはじまるのだろう。あのとき感じたその思いは、8年経った今も変わらない。


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