猛暑も過ぎて


 10月となり、やっと秋らしくなってきた。今年はとにかく暑かった。9月後半になっても、30度を越える日がふつうにつづいていたのである。「過去、いちばん暑い夏だった」らしい。なかでも、わたしが住んでいる練馬はとくに暑かったようだ。報道でも、日本一暑い街として練馬の名が何度かあがったほどだった。
 気象庁によると、今夏の都心の真夏日(日中の最高気温が30度以上の日)は観測史上最も多い71日。猛暑日(日中の最高気温が35度以上の日)は13日。そんななか練馬における猛暑日は37日もあったという。都心でもダントツの暑さである。自宅で仕事をしているわたしは、この猛暑をまともに受け、日々暑さを肌身で感じながら仕事をしていたのだった。部屋のクーラーは設定温度を下げても下げても涼しくならず、モワッとした空気が日中ずっと漂っていたものだ。それにしても人間の肌というのは実に敏感かつ正確なもので、練馬が最高気温38.2度を記録した8月17日は、体の奥から暑さを感じ、「今日はただごとでない」と実感したのである。家にいることに堪え難くなり、夕方近くにたまたま電話がかかってきた仕事関係の友達に「暑くて家にいられないから、飲みにゆこう」と訴え、涼を求めて、銀座の夜の街へと出かけていったほどだった。
 一説によると、東京のなかでも練馬がとくに暑くなるのには、汐留あたりの高層ビル群が影響しているらしい。つまり汐留に高層ビルが林立したおかげで、東京湾から吹いてくる海風がそこでシャットアウトされ、また都心にたまった人工排熱も海側に出てゆかずヒートアイランド現象に拍車をかけていると。さらに、その高温化した空気が東京の北西部に連なる山々にぶつかって戻ってきて、練馬あたりで吹きだまるというのである。練馬はまさに海沿いの高層ビル群と東京北西部の山々とに囲まれた盆地状態にあるということだった。なるほど。そういうことだったのかと、妙に納得したのである。

 暑いといえば、わたしがよく行く赤道直下の国、インドネシアも相当暑い。常夏で、平均気温27.5度。乾季と雨季のふたつの季節がある。乾季はさわやかな晴天がつづき、湿度も低い。雨季はシトシト雨が降ったり、またスコールのような大雨が夕方から降り出したりする。日本でも最近、ゲリラ豪雨などと呼ばれる雨が降るようになったけれど、そんな時、わたしはインドネシアにいるような気分になるのだった。この世界的な異常気象のなか、日本も亜熱帯気候の域に入ってきたのだろうか。そんな思いになる。
 そして、そのインドネシアと東京の夏と「どっちが暑い?」という質問をときどき受けるが、やはり答えは東京の夏のほうが暑いのである。インドネシアにはまだ自然がたくさん残っているからなのだろうか。大都会ジャカルタこそビルに囲まれていて東京のようだが、地方に行けば椰子の木より高い建物は少なくなり、風が吹けば心地よく、クーラーなしでも過ごせる暑さだった。また少し標高が高いところに行けば、朝は寒いくらいである。わたしがかつて住んでいた東ジャワにあるマランは、標高450メートルほどの高原都市だったため、昼間でも心地よい暑さで、リンゴの産地ともなっていたのだ。日本に来たインドネシア人も、やはり日本のほうが暑いと言っているので、日本の夏は本当に暑いのだろう。せめて湿度がもう少し低ければ、過ごしやすくるなるのだろうが…。

 ともあれ、10月に入り猛暑も過ぎて、やっと過ごしやすい気候になってきて何より。ゆっくり衣替えなど楽しみながら、のんびりゆったり過ごしたいものである。インドネシアも、首都ジャカルタはちょうど今雨季に入ったらしく、「毎日ジャカルタは雨と曇りばかりです」というメールが先ほどインドネシア人の友達から届いた。日本もインドネシアも、そして地球規模で、新しい季節がはじまっているのだろう。そんなこんなで、2010年もラスト3ヶ月。どうか彩り豊かな、いい年にしたいものだと、季節の変わり目に改めて思うのだった。


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